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以和為貴(失敗談①)

まだ弁護士になって数年目だったと思いますが、ある損害賠償請求の被告事件を担当したことがあります。学生の時に集団でいじめを受けた原告が、その時に受けた心の傷が原因でその後就業が困難な状況になっているなどとしてその損害の賠償を請求するという事案でした。法テラスの相談案件で、相談者は請求を受けた側(いじめたとされる側)の一人でした。すでに訴訟提起されていたと思うのですが、請求金額は、かなり大きな額だったと思います。請求の内容を確認してみると、すでに請求権自体が時効にかかっていることが分かりました。私は、消滅時効を援用して請求棄却で終わりだ(簡単な事案だ)と思いました。

裁判が始まり、被告側の代理人は当然それぞれ消滅時効を援用し直ちに請求を棄却するように主張しました。しかし、裁判官はなかなか結審してくれません。被告代理人らに対して粘り強く和解の勧試をしてきました。和解期日は何度も開かれました。

被告代理人間でも期日間に集まって方針についての協議を何度か行いました。そうした中で、被告代理人の先輩方も和解に応じる構えを見せるようになりました。私自身は、そのような流れに納得が出来ていませんでしたが、最終的な意向を確認するために依頼者と協議を行いました。すると、私の依頼者は、裁判所勧試の和解金額について、一括では支払うことができないし、分割で支払い終わるまで何年もかかるかもしれないけど、できる範囲で和解に応じたいと言ってくれました。私は、「当初からお伝えしているとおり、法律上消滅時効の援用が認められるから判決になれば請求棄却となる見込みが高い。」「必ずしも他の被告と足並みをそろえる必要はない。」ということを説明しましたが、依頼者は、「原告が今でもそんなに苦しんでいることは知らなかった。本当に申し訳ないことをした。」とおっしゃり、結局、請求金額からすると少ない和解金額ではありましたが、和解が成立しました。

今振り返ると、私は依頼者に救われたと思います。当時の担当裁判官や原告代理人の先生は、法律を適用すれば原告の請求は認められないことは百も承知で、それでも原告のやりきれない思いを形にしようと懸命に訴訟活動をなさいました。そして、被告代理人の諸先輩方も、その思いを受け取りそれぞれのお立場の範囲で依頼者を説得されたのではないかと思います。もし仮に、その当時の私が原告から相談を受けていたとしたら、「気持ちは分かるけど裁判になったら請求は棄却される、弁護士費用がもったいないからやめといた方がいいのではないか。」とアドバイスをしていたと思います。しかし、原告代理人の先生はそうされなかった。原告の気持ちを受け止め、無理を承知で原告の思いを裁判所や被告側に伝え続けました。良い先生にご相談されたと思います。

数年後、私を救ってくれた依頼者から連絡をいただきました。「○○さんに対する和解金の支払いが終わりました。あの時は大変お世話になり、ありがとうございました。」

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